注意されるより何も言われないほうが気になるのはなぜ?

心理学

この記事で分かること

仕事で間違いを指摘されるのは気まずい。しかし実際には、間違っていたらしいのに何も言われないときのほうが、ずっと長く引きずってしまうことがある。この記事では、その理由を心理学の視点から整理し、考えすぎを短時間で切り上げるための具体的なやり方を紹介する。

指摘されるより「何も言われない」ほうが引きずる

先日、職場で上司からパソコン関係のちょっとした作業を頼まれた。担当業務としての指示ではなく、上司がその操作をあまり得意としていないため、個人的に声をかけてくれたものだ。「この人に頼めばできそう」と思ってもらえたようで、少し嬉しかった。

ところがその後、上司が別の社員と話しているのが聞こえてきた。私が設定した内容がどこか違っていたらしく、上司は自分でその部分を直していた。そして私には、特に何も言われなかった。

大きなミスではない。上司の端末上のちょっとした設定であり、自分で直せるなら直して終わりにしても何もおかしくない。しかもその上司は普段から腰が低く、「もう一度頼むのも悪い」と考えそうな人である。頭ではそこまで分かっていたのに、なぜか気になり続けた。

不思議なのは、「間違ってましたよ」と言われること自体はそれほど嫌ではなかった点だ。むしろ「あ、違ってました?すみません」と返せるほうが気は楽だった。つまり、つらかったのは注意されることではなく、答えが分からないまま残されることだったのである。似た経験のある人は多いはずだ。

情報がない空白を、人は想像で埋めてしまう

このとき実際に分かっていたことは多くない。何かが少し違っていたらしいこと、上司が別の社員と確認していたこと、上司が自分で直していたこと、そして私には何も言われなかったこと。事実はこれだけで、「なぜ言わなかったのか」はまったく分からない。分からないからこそ、頭は勝手に説明を作り始める。

事実

間違っていたらしいが、何も言われなかった

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空白

なぜ言われなかったのか、理由が分からない

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想像

「思ったよりできないと思われた?」
「自分でやったほうが早いと思われた?」
「もう頼まないほうがいいと思われた?」

もちろん、相手がそう言ったわけではない。起きた出来事と、そこから自分が推測したことは別物である。ところが頭の中では、この二つが区別されないまま混ざってしまう。

心理学の視点|曖昧さと不確実性

人は状況がはっきりしないとき、過去の経験やその場の情報を使って「たぶんこういうことだろう」と意味を補いながら理解しようとする。理由の分からない沈黙は、まさにこの「補う」働きが起きやすい場面だ。

悪い可能性ばかりが目につく理由

空白を埋めるだけなら、穏やかな説明を選んでもいいはずだ。大した違いではないから言わなかった、もう一度頼むのが悪いと思った、自分で直せるところだけ直した。相手の人柄を考えれば、こうした可能性のほうがむしろ自然である。

それでも一番引っかかるのは、「頼んだけどダメだったと思われたのでは」という可能性だった。ここに関係していそうなのが、ネガティビティ・バイアスである。

ネガティビティ・バイアスとは

肯定的・中立的な情報よりも、否定的な情報に注意が向きやすく、印象にも残りやすい傾向のこと。

悪い評価をされた事実はどこにもないのに、確認できていない悪い可能性のほうが大きく見える。悪い想像が強く浮かぶと当たっているように感じるが、それは証拠があるからではなく、注意がそちらに向きやすいだけだと知っておいたほうがいい。

フィードバックには「分からない」を減らす働きがある

「間違っていたなら言ってほしかった」と感じたのは、怒られたいからではない。答えが分かるからだ。「ここが違ってたよ」と言われれば、何が違ったのか、どこまでは合っていたのかが分かり、次に同じことを頼まれたときに直せる。

フィードバックは指摘するだけのものではない

「何が起きたのか分からない」という不確実な状態を減らす働きもある。答えがあれば修正して終われるが、答えがなければ、その空白についていつまでも考え続けられてしまう。

だから、注意されることそのものより、何も言われず答えが分からない状態のほうが気になる場合がある。この見方は、自分が指摘する側に回ったときにも役に立つ。相手を気遣って黙って直すより、軽く一言伝えたほうが、相手にとっては親切になることがあるからだ。

考えすぎを止める3つの手順

同じことを頭の中で何度も考え始めたら、次の順番で切り上げるといい。

手順1|事実と想像を分ける

実際に見聞きしたことと、自分が補ったことを仕分ける

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手順2|別の可能性を挙げる

悪い想像と同じ数だけ、穏やかな説明も並べてみる

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手順3|聞けそうなら軽く聞く

関係性とタイミングが合うなら、一言で確認する

最初にやるのは、事実と想像の仕分けである。

事実

実際に相手から言われたこと、自分が見聞きしたこと。

例:上司が自分で直していた。私には何も言われなかった。

想像

情報がない部分を、自分が「こう思われたかもしれない」と補ったもの。

例:頼まなきゃよかったと思われた。もう頼まれないかもしれない。

メモに書き分けるだけでも、「相手がそう思っている」と「そう思われたかもしれない」を切り離しやすくなる。次に、悪い想像と同じ数だけ穏やかな説明も挙げてみる。どれが正解かを決める必要はない。悪い可能性が唯一の答えではないと確認できれば十分だ。

そのうえで、聞ける関係性とタイミングがあるなら、軽く聞いてしまうのが一番早い。私の場合は、ちょうど上司と話す機会があったので、深刻にならないよう本当に軽く聞いてみた。

waraka

なんか間違ってました?

上司

自分も変なんですよね

責められることもなく、「できてなかったよ」という空気でもなく、そのまま普通の会話として続いた。何分もかけて考えていたことが、数秒の一言で終わったのである。

聞くときのコツは、改まった場を作らないことだ。別の用件で話したついでに、短く、相手を責めない言い方で聞く。「なぜ言ってくれなかったんですか」ではなく、「なんか間違ってました?」くらいの軽さがちょうどいい。

毎回すべて確認する必要はない

ただし、気になったことをいつも確認すべきだというわけではない。相手が忙しそうなとき、聞ける関係がまだできていないとき、些細なことを何度も尋ねることになりそうなときは、無理に聞かなくていい。

その場合でも、事実と想像を分けるところまでは一人でできる。答えが出ない問いだと分かったうえで手放すのと、想像を事実だと思い込んだまま抱え続けるのとでは、消耗の度合いが大きく違う。

まとめ

考え続けるより、10秒だけ確認する

人は、分からないことについて驚くほど長く考え続けられる。考えが堂々巡りを始めたら、まず事実と想像を分ける。そして聞けそうなら、10秒だけ使って軽く確認する。そのほうが、考え続けるよりずっと早く終わる。

次に誰かの沈黙が気になったら、頭の中にあるもののうち「実際に言われたこと」はどれかを、一つずつ確かめるところから始めてほしい。

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