点字もモールス信号もQRコードも、実は同じことをしている

教養・思考

点字、手話、モールス信号、手旗信号。こうしたものには、どこか「知っている人だけが分かる秘密の言葉」のような面白さがある。

点の配置を指で触って文字を読む。短い信号と長い信号だけで遠くの相手に文字を送る。旗を動かす方向によって意味を伝える。

普段使っている文字とはまったく違うため、一見するとそれぞれ別々の仕組みに見える。

しかし、モールス信号について考えているうちに、ふと別のものに似ていることに気づいた。2進数や16進数である。

さらに考えてみると、ASCIIやUnicode、QRコード、バーコード、そして暗号も同じ方向に並べることができる。

これらに共通しているのは、ある情報を、別の形に置き換えて伝えていることである。

「A」は本当にAなのか

私たちはアルファベットの「A」を見れば、特に考えることなくAだと認識する。しかし、Aという情報を表す方法は一つではない。

方式 「A」の表現例 何を使って表すか
通常の文字A文字の形
ASCII65数値
2進数010000010と1
16進数410〜9とA〜F
UnicodeU+0041符号位置
UTF-841(16進)バイト列
モールス信号・-短点と長点
点字⠁点の配置
指文字Aを示す手の形手の形
手旗信号旗や腕の位置空間上の方向
QRコード二次元の白黒パターンセルの配置
バーコード線と空白のパターン幅や並び
暗号暗号方式と鍵によって変化数学的な変換

同じ「A」であっても、コンピューターの中ではASCIIなら10進数で65に対応し、それを2進数で表せば01000001になる。16進数なら41である。UnicodeではU+0041という符号位置が割り当てられている。

一方、モールス信号なら・-、点字なら⠁になる。

表面上はまったく違う。しかし、どれも「A」という情報を別の規則に従って表現している。

モールス信号が2進数っぽく見える理由

モールス信号の数字を見ていると、特に規則性が分かりやすい。

数字 モールス信号
1・----
2・・---
3・・・--
4・・・・-
5・・・・・

そして6から反対方向になる。

数字 モールス信号
6-・・・・
7--・・・
8---・・
9----・
0-----

短点と長点という二種類の信号を組み合わせて数字を表現する。この構造だけを見ると、0と1を組み合わせる2進数にも少し似ている。

もちろん、モールス信号は単純な2進数ではない。短点と長点だけでなく、文字と文字、単語と単語を区別する「間」も重要な情報になるからである。

それでも、限られた種類の信号を組み合わせて多くの情報を表現するという発想には共通点がある。

「73」と「88」だけで意味が伝わる

さらにモールス信号には、文字を一文字ずつ送るだけではない面白さもある。電信やアマチュア無線の文化では、次のような数字の略号が使われてきた。

数字の略号 モールス信号で送ると 意味
73--・・・ ・・・--Best regards(よろしく、敬意を込めて)
88---・・ ---・・Love and kisses(愛とキスを)

意味を知らない人には単なる数字である。しかし、同じ規則を知っている人には、その数字以上の意味が伝わる。

考えてみれば、これは私たちが普段使っている言葉にも似ている。「ありがとう」という音そのものに、感謝という意味が物理的に入っているわけではない。

その音にその意味を結びつけるという約束を、同じ言語を使う人々が共有しているから意味が伝わるのである。

点字は「触る文字」である

点字も興味深い。文字は目で読むものだと考えがちだが、文字の本質が「意味を伝えるための記号」であるなら、必ずしも目で見る必要はない。

点字では、基本となる6個の点の配置によって文字を表現する。つまり、紙にインクで形を描く代わりに、紙などに凹凸を作る。それを目ではなく指先で読み取る。

文字というものを「見た目」から切り離して考えると、文字とは特定の形そのものではなく、送り手と受け手が共有している規則によって意味を持つ記号だということが見えてくる。

QRコードやバーコードも仲間である

この視点で見ると、コンビニやスーパーで毎日のように目にするバーコードも同じである。人間には意味のない線の集まりに見えても、読み取り機にとっては情報である。

QRコードも同様だ。白と黒のセルが並んでいるだけなのに、その配置を一定の規則で読み取れば、文字列やURLなどのデータを復元できる。

つまり、人間が読む文字だけが文字や情報の表現方法ではない。人間の目に意味不明でも、読み取る側が規則を知っていれば情報として成立する。

では「暗号」も同じなのか

暗号も情報を別の形に変換するという点では似ている。しかし、目的が違う。

モールス信号や文字コードは、基本的には情報を伝えられる形にするための符号化である。モールス信号のルールを知っている人なら、誰でも・-をAとして読むことができる。

暗号は違う。暗号化では、第三者に内容を知られないようにすることが重要になる。つまり、

符号化は

「どう表現するか」

暗号化は

「どう秘密にするか」

という違いがある。見た目はどちらも「意味不明なものへの変換」に見えるが、目的はまったく異なる。

情報には決まった姿がない

ここまで並べてみると、一つのことが見えてくる。

情報そのものには、決まった姿がない。

「A」という情報は、

Aという形でもいい。
65という数字でもいい。
01000001でもいい。
・-という光や音でもいい。
⠁という指先で感じる点でもいい。
手の形でも、旗の位置でもいい。

重要なのは、送り手と受け手のあいだで「この表現は、この意味である」という規則が共有されていることである。

同じ情報を、目で受け取ることもできる。耳で受け取ることもできる。指先で受け取ることもできる。コンピューター同士なら電気的な状態として受け取ることもできる。

そう考えると、点字、モールス信号、手旗信号、文字コード、QRコードは、まったく別々のものではなくなる。

すべては、「情報をどう表し、どう相手に届けるか」という、人間が昔から考え続けてきた問題に対する、それぞれ異なる答えなのである。

そしてこの先には、「そもそも情報とは何なのか」という問いがある。

点字やモールス信号へのちょっとした興味からでも、情報科学や言語学、記号論、さらにはシャノンの情報理論までつながっていく。

一見関係のない知識が、ある瞬間に一本の線でつながる。こういうところに、広く知識を持つ面白さがある。

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