丸暗記より自分の体験に当てはめると忘れにくい。心理学用語の覚え方

心理学

心理学を勉強し始めると、まずぶつかるのが用語の多さだ。展望記憶、精緻化、メタ認知、内発的動機づけ。教科書を読んでいるあいだは分かったつもりでも、数日たつと意味があいまいになり、似た言葉と混ざってしまう。単語帳のように何度も書いて覚えようとしても、なかなか頭に残らないという人は多いはずだ。

心理学用語が覚えにくいのは、記憶力が足りないからではなく、覚え方が用語の性質に合っていないことが多い。この記事では、日常の出来事を心理学用語に当てはめて覚える方法を、実際の例と手順に分けて紹介する。

心理学用語が丸暗記で覚えにくい理由

心理学用語の多くは、人の心や行動の「仕組み」につけられた名前だ。目に見える物の名前と違い、言葉だけを見てもイメージが浮かびにくい。「展望記憶」と聞いて、それがどんな場面の記憶なのかをすぐ思い描ける人は少ないだろう。

さらに、教科書の説明は一般化された硬い文章で書かれているため、自分の生活とのつながりが見えにくい。言葉と定義をセットで繰り返し唱えても、それは意味のない文字の並びを覚えているのに近く、時間がたつと抜け落ちやすい。

逆に言えば、用語に具体的な場面と自分との関わりを持たせれば、覚えやすさは大きく変わる。その代表的な方法が、自分の体験に当てはめることだ。

自分の体験に当てはめると覚えやすくなる仕組み

心理学には「精緻化(せいちか)」という概念がある。新しく学んだ情報を、すでに持っている知識や経験と関連づけ、意味を深めながら記憶することだ。言葉をただ繰り返すより、具体的な経験と結びつけたほうが記憶に残りやすいとされている。

また、自分自身に関係する情報は、そうでない情報よりも記憶に残りやすい傾向があり、これは「自己関連づけ効果」と呼ばれている。他人事の例文より、自分が実際にやってしまった失敗のほうが忘れにくいのはこのためだ。

精緻化:新しい情報を、すでに知っていることや自分の体験と結びつけて覚えること。丸暗記の反対。

自己関連づけ効果:自分に関係のあることほど、記憶に残りやすくなる現象。

長期記憶:一時的ではなく、長いあいだ残り続ける記憶。

用語を覚えるのではなく、
自分の体験に名前をつけるつもりで覚える

実例:電車を乗り間違えそうになった体験で覚える

具体的な例で考えてみる。普段とは反対方向の電車に乗る予定があり、少し前から「今日はいつもと反対方向だから気をつけないと」と意識していた。ところが、いざ乗る瞬間になって、いつもの方向の電車に向かいそうになった。

この出来事を、普通の言い方と心理学用語を使った言い方で書き比べると次のようになる。

普通の言い方
「今日はいつもと反対方向だから気をつけようって思ってたのに、直前になっていつもの方向に乗りそうになったww」
心理学用語の言い方
「展望記憶が危うく失敗するところに、習慣的行動が重なり、逆方向の電車に乗りかけたぜww」

ただ電車を乗り間違えそうになっただけなのに、まるで認知心理学の研究報告のようになる。しかし、この大げさな言い換えこそが、用語を覚えるうえでの手がかりになる。

ここで使った「展望記憶」は、未来のある時点で実行しようとしている行動を覚えておく記憶のこと。帰宅したら洗濯物を取り込む、明日の朝に書類を提出するといった予定が該当し、今回なら「反対方向の電車に乗る」という予定がそれにあたる。一方の「習慣的行動」は、繰り返し経験することで意識しなくても実行できるようになった行動だ。毎日同じ方向の電車に乗っていれば、その動きは半ば自動的になる。

予定を覚えていたのに、乗る直前に習慣のほうが勝ってしまった。このように意図とは違う行動をうっかり実行してしまうミスは、認知心理学では「スリップ」と呼ばれる。

展望記憶:「あとでこれをやる」という、これから先の予定を覚えておく記憶。

習慣的行動:何度も繰り返すうちに、考えなくても体が勝手にやってしまう行動。

スリップ:やるべきことはわかっているのに、うっかり別の行動をしてしまうミス。

一度こうして自分の失敗と結びつけておけば、教科書で「展望記憶」という言葉を見たとき、駅のホームで向きを間違えかけた場面がそのまま浮かぶ。定義を暗記していなくても、場面から意味を引き出せるようになるわけだ。

体験に当てはめて心理学用語を覚える手順

この覚え方を習慣にするなら、次の流れで進めると続けやすい。

1
日常の小さな出来事をメモする
うっかりミス、迷ったこと、気分が変わった瞬間など、特別ではない出来事で十分だ。
2
当てはまりそうな用語を探す
教科書の索引や用語集を見て、その出来事を説明できそうな言葉を一つか二つ選ぶ。
3
普通の言い方と用語の言い方で書き比べる
同じ出来事を二通りの文で書くと、用語がどの部分を指しているのかがはっきりする。
4
用語の意味を自分の言葉で一行にする
教科書の定義を写すのではなく、自分が分かる言葉に言い換えて書いておく。
5
数日後に何も見ずに思い出してみる
思い出してから見返したり、誰かに説明したりすると、記憶に定着しやすくなる。

手順4の「自分の言葉で言い換える」作業は特に大事だ。定義を写すだけでは丸暗記と変わらないが、言い換えようとすると、どこが分かっていないのかに自然と気づける。手順5も、ノートを読み返すだけで終わらせず、先に思い出そうとしてから確認するほうが効果的だ。思い出す練習そのものが記憶を強めることは「テスト効果」として知られている。

テスト効果:覚えたことを読み返すより、思い出そうとするほうが記憶に残りやすくなる現象。

書き比べた文章は、SNSに投稿してみるのもいい。普通の出来事をわざわざ難しく言い換えた文章は意外と面白く、人に見せることがそのまま見返す機会にもなる。

当てはめるときに気をつけたいこと

体験に当てはめる覚え方は便利だが、無理にこじつけないことが大切だ。人間の行動は一つの用語ですべて説明できるわけではなく、同じ行動でも状況や本人の意図によって関係する心の働きは変わる。

当てはめに迷ったときは、選んだ用語の定義を教科書で確かめ直すといい。「この出来事は定義のどの部分に当てはまるのか」を確認する作業そのものが、用語の理解を深めてくれる。当てはまらないと分かった場合も、それは定義を正確に読めたということであり、決して無駄にはならない。

楽しみながら続けるのがいちばんの近道

日常の出来事を用語に置き換えていると、自分の行動や考えを一歩引いた位置から眺める癖がついてくる。これは「メタ認知」と呼ばれる働きで、自分がなぜそう行動したのかを考えることで、普段は意識していなかった心の動きにも気づけるようになる。

そして、こうした発見を面白いと感じ、もっと知りたいと思う気持ちは「内発的動機づけ」につながる。心理学を学んでいるから日常を分析するようになり、分析が面白いからさらに学びたくなる。この循環ができると、用語を覚えることは苦しい暗記ではなくなる。

メタ認知:自分の考えや行動を、一歩引いたところからもう一人の自分が眺めるように捉えること。

内発的動機づけ:ごほうびや評価のためではなく、「面白い」「知りたい」という気持ちそのものから生まれるやる気。

心理学は教科書の中だけでなく、
日常生活のあらゆるところにある

まとめ:今日の出来事を一つ、心理学用語に置き換えてみる

心理学用語は、定義を丸暗記するよりも、自分の体験に当てはめて覚えたほうが忘れにくい。具体的な経験と結びつける精緻化と、自分に関係のある情報ほど残りやすい自己関連づけ効果が働くからだ。

まずは今日あった小さな出来事を一つ選び、普通の言い方と心理学用語の言い方で書き比べてみてほしい。用語の意味を自分の言葉で一行にまとめ、数日後に何も見ずに思い出してみる。それを繰り返すうちに、教科書の言葉が自分の経験を説明する言葉に変わっていく。

もっとも、毎回こんな話し方をしていたら、周囲からは「普通に話してくれ」と言われそうなので、言い換えはノートやSNSの中だけにしておくのが無難だ。

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