偶然の一致に意味を感じてしまうのはなぜ?シンクロニシティとの上手な付き合い方

教養・思考

ちょうどその人のことを考えていたときに、本人から連絡が来た。何気なく時計を見るたびに、11:11や22:22のようにぞろ目が並んでいる。気になっていた言葉が、その日のうちに別の本やテレビでも出てきた。こうした偶然の一致に、思わず「何か意味があるのではないか」と感じたことがある人は多いはずだ。

偶然に意味を感じること自体は、決しておかしなことではない。ただ、それを運命やサインだと受け取りすぎると、大事な判断まで偶然に左右されてしまうこともある。今回は、心理学者ユングが唱えた「シンクロニシティ」を入り口に、人が偶然に意味を見つけたくなる理由と、偶然との上手な付き合い方を考えてみたい。

ユングが考えた「意味のある偶然の一致」

偶然の一致に意味を見いだす現象について、本格的に考えたのがスイスの精神科医・心理学者のカール・グスタフ・ユングである。ユングは、原因と結果の関係では説明できないのに、当事者にとっては深い意味を持つように感じられる偶然の一致を「シンクロニシティ」と呼んだ。

シンクロニシティ:心の中の出来事と外の世界の出来事が、因果関係はないのに意味のある形で重なって起こる現象。「共時性」とも訳される。

コガネムシのエピソード

ユングがシンクロニシティの例としてよく挙げたのが、ある患者とのエピソードだ。その患者は、夢の中で金色のコガネムシをもらったという話をユングにしていた。ちょうどそのとき、診察室の窓を外から叩く音がした。ユングが窓を開けると、コガネムシによく似た虫が飛び込んできたという。

理屈の上では、患者が夢の話をしたことと、虫が窓にぶつかったことの間に因果関係はない。しかしユングは、こうした一致を単なる偶然として片づけず、人の心と外の世界がどこかでつながっている可能性として考えようとした。

ただの偶然と考える

夢の話と虫の飛来は
無関係な出来事

シンクロニシティと考える

心の出来事と外の出来事が
意味のある形で重なった

もちろん、シンクロニシティは科学的に証明された考え方ではない。それでもこの言葉が今も広く知られているのは、多くの人が「偶然とは思えない一致」を実際に体験しているからだろう。

人はなぜ偶然に意味を見つけたくなるのか

では、なぜ人は偶然の一致にこれほど意味を感じてしまうのだろうか。

意味のない出来事は落ち着かない

人は、身の回りで起きる出来事に理由や筋道を求める生き物である。理由のわからない出来事が起きると、どこか落ち着かない気持ちになる。そこで「これは何かのサインだ」「起こるべくして起きたことだ」と意味を与えることで、出来事を自分の中で納得できる形に整えようとする。

特に、迷いや不安を抱えているときほど、この傾向は強くなりやすい。転職を考えているときに求人広告が目に入ると「背中を押されている」と感じたり、悩みを抱えているときに目にした言葉が自分へのメッセージのように思えたりするのは、そのためだ。

笑加
笑加

「これって、やっぱり何かの意味があるのかな」

当たった偶然だけが記憶に残る

もうひとつの理由は、記憶の偏りである。その人のことを考えていたのに連絡が来なかった日は、いくらでもあるはずだ。時計を見てぞろ目ではなかった回数も、ぞろ目だった回数よりはるかに多い。しかし、何も起きなかったことは記憶に残らず、一致したときだけが印象的な出来事として残っていく。

偶然の一致が起きる
▼
印象に残って記憶される
▼
一致しなかった回数は忘れる
▼
「よく起きる」「意味がある」と感じる

こうして、実際以上に偶然の一致が頻繁に起きているように感じられる。無関係なものの間につながりを見いだしてしまう心の働きは、心理学ではアポフェニアや確証バイアスとして知られている。

「666」は探せばどこにでも見つかる

数字の一致がよく語られるのが、陰謀論やオカルトの世界である。中でも有名なのが「666」という数字だ。

666(獣の数字):新約聖書の「ヨハネの黙示録」に登場する数字。人々を惑わす「獣」を表す数字とされ、悪魔や不吉なものの象徴として広く知られるようになった。

この666は、身近なところに隠されていると語られることがある。たとえば、次のような話だ。

語られる対象 666とされる理由
商品のバーコード左右と中央にある細長い区切り線が、数字の「6」を表す線の形に似ているとされる
インターネットの「www」ヘブライ語で「w」に近い文字が数字の6を表すため、「www」は666になるとされる
阪神・淡路大震災1月17日の「1+17=18」を「6+6+6」と分けて666とする

どれも一見すると意味ありげだが、よく見ると数字の取り出し方がそれぞれ違う。線の形を数字に見立てたり、別の言語の文字に置き換えたり、日付を足してから分けたりと、666になるように読み方を選んでいるのである。そもそも黙示録の古い写本の中には、この数字を「616」と記したものもあるとされ、数字そのものさえ一つに定まっているわけではない。

大きな出来事についても同じことが言える。阪神・淡路大震災と東日本大震災は、どちらも「46分」に発生したことが話題になったことがある。ほかの大きな地震も並べてみると、発生時刻は一見ばらばらに見える。しかし、数字を一つずつ拾っていけば、どの地震にも4と6を見つけることができる。

地震 発生日時
阪神・淡路大震災1995年1月17日 5時46分
東日本大震災2011年3月11日 14時46分
新潟県中越地震2004年10月23日 17時56分
熊本地震(本震)2016年4月16日 1時25分
能登半島地震2024年1月1日 16時10分

離れた数字を拾ってもいいことにすれば、46はどこにでも隠れている。探し方を決めずに探せば、一致はいくらでも見つかってしまうのだ。

アメリカ同時多発テロでも、数字の「11」にまつわる一致が数多く語られた。

語られた一致 数字の取り出し方
9+1+1=11日付を足す
最初に衝突したのはアメリカン航空11便便名を使う
ツインタワーが「11」に見える形を見立てる

足す、並べる、形を見立てる、文字数を数えるといった方法を自由に選べば、意味ありげな数字はいくらでも作れてしまう。

数字が意味を持っているのではなく、
意味のある数字になるように
読み方を選んでいる。

予言が当たったように見える仕組みも同じで、こちらは別の記事で詳しく取り上げている。

偶然に意味を感じるのは、
出来事に筋道を求める
人間らしい心の働きでもある。

偶然に振り回されないための付き合い方

偶然に意味を感じることは、悪いことではない。何気ない一致がきっかけで新しいことを始めたり、大切な人に連絡してみたりできるなら、それは前向きな力にもなる。問題になるのは、偶然を根拠に大きな決断をしてしまったり、偶然が起きないことに不安を感じたりするようになったときだ。

振り回される使い方

偶然を「答え」として
判断を任せてしまう

上手な使い方

偶然を「きっかけ」として
自分で考える

偶然の一致に出会ったときは、次の順番で受け止めてみるとよい。

1
まずは「面白い偶然だ」と受け止める

いきなり運命やサインだと決めつけず、まずは偶然の一致そのものを楽しむ。

2
なぜ気になったのかを考える

その偶然が気になったのは、自分が何を考えていたからなのかを振り返る。偶然そのものより、そこに反応した自分の関心のほうにヒントがある。

3
判断は事実をもとに決める

転職や買い物など大きな判断をするときは、偶然ではなく、条件や情報などの事実をもとに決める。

4
気になった気持ちは行動のきっかけにする

連絡してみる、調べてみるなど、小さな行動につなげる程度にとどめておく。

偶然の一致は、それ自体が答えを教えてくれるわけではない。しかし、自分が今何を気にしているのかに気づかせてくれることはある。偶然に意味を見つけたくなったときこそ、その意味を外に求めるのではなく、自分の内側を見つめるきっかけにするとよい。

まとめ

偶然の一致に意味を感じてしまうのは、出来事に理由を求める人間の心の働きと、一致したときだけを覚えている記憶の偏りによるところが大きい。ユングのシンクロニシティのように、偶然の一致に意味を見いだそうとする考え方は昔からあるが、それを根拠に大切な判断をしてしまうと、偶然に振り回されることになる。

次に偶然の一致に出会ったときは、運命かどうかを考える前に、「なぜ自分はこれが気になったのか」を一度考えてみてほしい。

偶然は答えではなく、
自分の関心に気づくためのきっかけ。

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